恋歌/clef
 
もえる火の中でインクの文字が黒く浮きでたと思うや、寸時ののち、
ひときわ赤くかがやいた。一瞬、炎がわたしの心臓を、わしづかみ
にしようと触手をのばしたけれど、ここまでは届かなくて、わずか
に頬のうぶ毛をかすめただけだった。試みのあざとさに驚くよりも、
まだそんな力をのこしていた、おもいの滓がいじましい。

あなたの螺旋とわたしの螺旋は、ふれあわなくてもよかった。雑踏
でゆきすぎるだけの、記憶にとどまらぬ他人であるほうがよかった。
あのとき、絶縁がはがされ、ばちっと電気がながれ、なま身のから
だには痛さであるはずのここちよさに酔っていた。毒である酸素を、
うちにとりこむことで、な
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