批評祭参加作品■気分と物語/岡部淳太郎
 
日本では古来より独自の短詩定型が発達していた。和歌や俳句の究極まで研ぎ澄まされた形式は、中国の漢詩や西洋のソネットとはまた違ったミニマルな美しさを湛えている。一部に長歌や連歌といった形式もあるものの、一般の日本人にとって詩は概して短いものであった。わずか十七文字や三十一文字の中に抒情を溶けこませる。そのストップモーションのような瞬間のキレこそが日本人にとっての詩というものをイメージさせてきたのだと言える。人々がそこから受け取るものはやはり瞬間の抒情である。たとえば相聞歌のようなものから物語の雰囲気を感じ取ることはあるだろうが、物語そのものを受け取るようなことはない。そこにあるのはあくまでも抒情と詠
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(0)