偽りではなかったけれど/松本 卓也
 
思えば貴女に求めていたものは
包んでくれた掌の温もりだけに過ぎなかった

十分な言葉を交わしたつもりもなく
ただ何ヶ月か遅れて忍び寄ってきた
心に突き刺さる冬の冷たい空気から
守って欲しかっただけかもしれない

君は至極あっさりと紡ぐ言葉を失くし
僕はただ日常に還っていくだけ
何遍繰り返した事なのか思い出せないけど
ただ目の前を通り過ぎていく
鼓動の一つでしかなかったんだね

お互いに

何一つ許容できなかった関係の中では
ひと時の傷の舐め合いですら
尊い語らいであると勘違いしていられた
もう重ねただけじゃ意味がない
それぞれの時間の中で培ったものでさえ

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