こおりの音/麒麟
冷たい空気が
そ〜っと首筋の体温を奪い取っていくような、
そんな音を
時々 彼女は吐いた
なんて綺麗な音を出すのだろう、と
僕は
少し気違いな感触を得た
彼女の音は
いつもは平温で
熱くもなく、ただそこを通りすぎた
そんな音は
いったいどこへ行くのだろう
冬の風が運んでくるのは
誰かの声の残影なのだ
北国から降りてきて
温度は奪われたに違いないが
時々わずかに
「帰っておいで」と
聞こえることがある
通学路の学生の群れが
煩わしい音を上げている
壊してしまう音
繊細な声を
うるさい脇を通り過ぎる間際
通りすぎるはずの音で
「死ねばいいのに」、と彼女が呟いた
・・・・・・、破壊音は少しの間止まった
その隙に
何かのささやかなため息が聞こえ
彼女は耳を澄ませた
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