壁画が生んだ子守唄/こうや
 
壁画に眠ったままの物語をいまこそ解(と)かそう
子守唄にのせて伝え授けるには今が好機なのだ

塗り重ねられた油絵のように
深みをたたえた一筋の線
その一片(いっぺん)にどれだけの音が染み込んでいるのだろう
それは行き去ってしまった過去の迷宮だ

壁画に住み着く彼(か)の鳥は
ただこちらを凝視して当時の名残を伝えようとしている
慎ましやかな視線から何をも会得せず
遠ざかってしまう幾多の足音を耳にしても
その鳥の目は一向に曇りを知らない
何百・何千年も空気が流動し続けるなか一羽きりで

私はその点に、ただただ頭が下がる思いがしたのだ

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