沈黙/たもつ
 
使い古されたピアノが一台
早朝の小さな港から
出航する

ピアノの幅、奥行、高さ
しかもたないのに
言い訳をすることなく
ただ外海を目指していく

誰もが自分自身のことを語りたがる
確証もなく
それがまるで
自分自身のことであるかのように

人気のない春
港だけが
やわらかい風に透きとおってる

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