ウォーター・フロント〜幻想曲〜/渡 ひろこ
 

おくれ毛を撫でながら
ふくみ笑いで通りすぎる


水先案内人は
とうに化石となって泥の中で眠り
行き場を失った小舟は
いくつもの白い手に弄ばれる


混沌としたゆらぎ
扇形にしずむ
波のはざまに
とろとろ満ちてくる旋律


うら返った意識に
拍動を送りこむ音の重なり…





幻想曲が降りてきた





ふと 目を開けると
眼下の夜景のパノラマに
五線譜がひろがる


ガラス越しに映る暗い水面(みなも)は
それでも私を誘っている








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