ウォーター・フロント〜幻想曲〜/渡 ひろこ
闇の中を漕ぎだしていた
引きよせるのは
奈落からのとろりとした旋律
あらがわず
身をゆだねることの心地良さ
どよんとした
澱に堕ちていく意識
にぎった櫂がゆっくり波紋を描く
水面(みなも)はひそひそざわめきながら
また一人
迷宮の海へと送りだす
一縷(いちる)の望みで見上げても
目をふせるおぼろ月
淡いふちどりから
憐れみだけを静かに照らす
どこかで手招きしてるのは
やはり女の白い手か
橙色の灯が遠くにじんで
舟底を打つさざ波
ゆられているのか
ゆさぶられているのか
闇にとけた潮風に問うても
お
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