眠らない理由/九谷夏紀
こんな日は眠りたくないのです
あなたとせめて話せるのなら
眠れるのかもしれません
あなたはもはやとおいひと
あなたももはやそんなふうで
わかっています
知っています
かなしみがかなしみを呼んで
かなしみが底をついて
ただもうぼうっとしてしまうのです
やりきれないよ
やりきれない
かなしみをうたったところで
恋しさを奏でたところで
比喩に置き換えたところで
今夜だけは
暇つぶしが出来ない
私はとおくに行こうと決めた
これは旅立ち
だけど
帰って来ない人を待つ人なんて
よっぽどの理由があるからなの
私にもあなたにも理由なんてない
だから理由もなく眠りたくない
なんとなくいつのまにか眠るの
これはただの旅立ち
もしかしたら傷を治すための
もしかしたら才覚を現すための
もしかしたら夢をみるためだけの
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