「地下へ続く夢」/菊尾
 
真昼の夜の中
並べられている標本
椅子に縛り付けられている私には名前が無い
視界は隠されてネジを巻く音がする

12時の鳩時計
暗さとは無縁のはずなのに
繰り返し繰り返し
肢体は意志に反し
微弱な痙攣を施すのはその手とその声
オルゴールが耳の辺りに近付けられた
私の意識は遠のいていく


「見る必要はない」と
見せてもらえない視界の外側
一方的に届けられる感触が何もかも
指伝いで舌に落とされ絡みつく
感情も思考もここではバラバラにされていく


見慣れた天井
横を向く
ブランコが揺れる映像
子供のはしゃぐ声
階上で響くピアノの拙い調べ
目を瞑ればまた夢が浮かぶ
蝶の標本
焼け穴が広がる古びたフィルム
あなたが撮影した私の後ろ姿
地下へ延びる18の石階段


時間が来れば
あなたが手を引く
今日も階段を降りていく
背後から首筋への口づけ
私は捕らわれる
いつかの蝶のように
この地下室で

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