それが何だったかもうわからない/カンチェルスキス
 
  蛸壺の中で何人も嫌味を言い合っている 煙で見えなくした無表情の顔で

  三秒間で繰り出した言葉が 何人もの内臓をえぐり 来世さえ摘み取ってゆく

  知らない顔も知ってる顔も ホッチキスの針が切れてるために 

  発車する市バスの排気ガスで飛んでいって 悪びれず汚れた水たまりを吸ってる

  どこかで約束したかもしれないことを 思い出そうとして いつも電波が切れる
 
  誰かと約束したかもしれないことを 忘れないように 電波に記録してたのに

  熱い紅茶は冷めて 人びとの冷笑や不機嫌を表面に映して佇んでいる

  妙に遠くまで見え過ぎる冬の枯れ木道、分厚い雲
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