跡音/木立 悟
曇へ向かう本
曇へ向かう本
忘れられた頁の
砂と波と息
羽に包まれ
石が流れつく
本は見つめ
火をふりかえる
雨が雨に落ち
空になる
手のひらの空
しずくの空
はばたきつづける
飛べないもの
ひとつひとつ
燃える砂粒
風ではなく
重ねられる
まなざしの層
照らされる本
冬のむこうの冬のほうから
曇の音が響いている
動かない波の上を
明るいかたちがわたりゆく
指が指に触れる音
どこかへ沈みつづける音
積もり過ぎ去る径の途中に
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