白楽百番地/凛々椿
 
夕刻
白楽百番地は混濁する

路地を行くたくさんの影
色はまだらに四方に吹きつけられて
球殿からもれこぼれる喧騒が
雑踏の常時音に伏す時
スナックカサブランカの孤独はゆるりとほどけ
喧騒の向こう側の小さなお店
白楽100番地は
シンコペーションを高らかに歌い始める
その渦の前に猫は立ち止まり
扉をかりかり
かりかりと


くるくる回転して落ちる
夢よ
ひかりよ
希望よ
かなしみよ
時よ
つぐないよ
未来よ
よやみよ
罪よ
せいぎよ


少し離れた坂の上
九十七番地
銀杏並木の下
悲しい人がそっと煙草に火をつける時


踏切の
閑々と鳴る百番地は昨宵に戻り
敬愛スタジオよりユリゲラーズの密音が這い出しては
笑い声
しんと空気は混濁に吹き
街は変わり
勝亦薬局に立ち尽くす浮浪者の足元を
あまたの猫がすりぬけ
あまたの車輪が走り抜け
旧街道はどこまでも
どこまでも


つぐないよ
未来よ
よやみよ
罪よ

夜半
白楽百番地は安息する
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