「猶予」/菊尾
 
背中を通して響く声の揺らぎ
どこかで聞いた懐かしい声
春の夜は人が消えていく

暗示をかけられたい
風の強い日に何もかも忘れる暗示を
薄れてまともじゃない視界の中
散々見てきたモノや聞こえたモノも
その瞬間から知らなかった事になる
そんな暗示が必要です
あなたが居てくれないのなら
呼吸する意味すら無いのだから

あまりに遠い存在に
感性は奪われていくばかり
近付き方も残っていない
例えば全てを投げ打ったとして
どこまで寄り添える?
どんな表情で認めてくれる?

哀しくて愛しい
乾く口唇
胸がざわつく
真夜中が後ろで騒いでいる
こんな気持ちの処理の仕方を探している


紫陽花が咲くその前に
忘れるようにするから
今しばらくの
猶予を下さい

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