人口ルビー/千月 話子
 
層強く 冷やしておこう
冷凍室の ように・・・

しまいには 口も利けないくらい
冷やされて 干からびて
どうしょうも無くなった私は
端っこで入り組んだ商品の影にある
化粧室に 逃げ込んで
乾いて カサカサになった唇の皮を
むいて 剥いで・・・ むいて 剥いで・・・
徐々に 体内モルヒネに幻惑されていく

やがて 自制の効かなくなった私を止めたのは
チクリ と痛んだ唇から染み出した
赤い 紅い 血を見たからだった

そのうち それは大きな粒になり
洗面台の上に 落ち
血中の凝固剤で少しずつ固められていく

そして 次々にやって来る
冷えた人々が流した 赤い血は
清掃業者に集められ
次の日には綺麗に加工されて
デパートで 一番程好く冷えた
宝石フロアーのガラスケースに
ルビーの宝飾品として 売られているのだろう




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