無罪放免/石川和広
 
女にふられて あんたは何も悪くないと言われて
ぼんやりと抱きしめてほしい日々が続いた

近所の空き交番の
防犯ポスターは
きばんでいる

冬の青い朝などは
建物自体 廃墟にみえる
ぼくは何日も
その前をとおりすぎるが
いつまでも
ぼくを捕まえるおまわりさんは
あらわれないのだ
(悪いことしてないから?)

ある日雨が降っていて
空き交番の前で ぼくは雨宿りしてた
近くの小学生たちが
傘をふりまわし
笑いながら走っていく

特に用事もないし
やっぱり捕まえてくれないので
とびらを開けて中に入る
110番の黒電話がひとつ
事務机の上にある

かけてみた
「あのう」と云うと
80くらいのばあさんだろうか
「帰りなしゃい」と答えた
木のざわめく音がして切れた

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