君に向けて/海月
君との最後にしては満足できたのだろうか
今までの経験に比べたら上手に出来たのだろうか
君の呼吸は少しずつ深く遅くなっていく
微弱な鼓動だけが僕の手を伝い届く
「ありがとう」と唇が微かに動き伝える声
「さようなら」を言わないのは生きたいから
君の手を握り締めても帰ってくる温もりはなく
徐々に冷えていく身体に暖かい雨が降る
君の好きな曲を何度も何度も奏でるけど
同じ場所で躓いてしまい相変わらず弾けないまま
君の好きな料理を何度も何度も作るけど
君は一口も食べないから何が悪いか分らないまま
君の好きな事を
僕の好きな事を
君の時間は僕の後ろで止まったまま
僕はあれからどれくらい止まっていたのだろう
君の好きな曲も躓く事もなく好きな曲も奏でられるし
君の好きな料理も同じ味を何度でも作る事も出来るよ
君に向けて
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