「砂の中」/菊尾
今まで触れた事柄は
次から次へ流れてしまい
今は無風の中
何も感じられないのに
手を探り合っている
ふたりが居た記憶を
僕達はもう持っていけない
かすかに触れていた指先は
君から離したみたいだ
砂塵に囲まれて全てが覆われる
呑まれてしまう前に
その名前を叫んだ
声は掻き消され
砂は僕を閉じていくけれど
その名前を叫んだんだ
閉塞的な暗闇
砂粒が喉を詰まらせていく
沈みながら感じる重さ
意識が溺れる
押し潰されて僕達は
砂の一部になっていく
何かが触れた気がした
ざらつく中に皮膚の感触
それは指のようだった
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