赤い風船/木屋 亞万
 

底へ向かう身体は南へ流される
いつだって途中で手放されてきた
感謝をしなかったからだろうか
許して欲しいとき近くに手はない

立ち直る予定もないのに
私を包む物語は終わってくれない
文字に身を任せても導いてくれない
暗い海の底に辿り着いたけれど
上がっていける気がしない
向こうにもっと深い底が見える

しゃがみ込む身体に聞き慣れた
喉元でつむじ風を起こしている声
後ろから頭を越えて耳まで届く
新しい赤い風船をひとつ持って
私に涙と雪を手渡してくれる

壁の前では今日何度目かのつむじ風
感謝を言わなくてはと思う
頭を撫でてくれる手がある間に
願う声より先に走るものがあって
赤いコートは初めて濡れた

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