無数のあなた、ひとりの私/佐々宝砂
 
窓を開けてそのとき
小さなひとりの神を殺したかもしれないと
タマネギを刻んだとき
取り返しのつかない何かを断ち切ったかもしれないと
悩んだ詩人がいたけれど
それは確かに真実だったと思うんだけど
あのひとはきっとシュレディンガーの猫を知らないわ

小さなひとりの神は死に/生まれ
何かが断ち切られ/つなぎとめられ

すべての出来事に蓋然性があるのなら
ディラックの海だって存在するのよきっと
現代物理学が否定したって蓋然性はあるんだから
あなたはそこを泳いでいたかもしれないじゃない

いいえ不可逆なことなんかない
取り返しのつかないことなんかない
枝分かれするすべての
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