シャドー・ダンサー/恋月 ぴの
崩れ落ちる
その境界のあたりで
何人かの若い男女が壁に向って踊っていた
振りをあわせ
息をあわせ
一心不乱に踊っていた
壁の向う側に在るべきもの
それは
ラケットを構えた顔の無い男の姿であり
ステップを踏む観客達の姿でもあり
誰一人として他者との関わりから逃れること等出来ないのだと
踊り続ける彼等の影は長く延び
壁の向う側から放たれたボレーショットを
打ち損ねた鈍い感触が右手首に甦ると
使い古しのテニスボール
ひとつ
上弦の月に向ってポコンと跳ねた
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