シャドー・ダンサー/恋月 ぴの
壁打ちテニスが流行っていた
とある場所がある
心に描いたネットの向う側へと
誰もがひたすらにラケットを振った
放物線を描き跳ね返ってきた球を
時が経つのも忘れ打ち返した
街灯の明りを背にラケットを振った
振り払うべき何かがあったのか
無かったのか
再びその場所を訪れてみた
冬の夜空はある種終末観を漂わせ
何も隠すもの等残ってはいないとばかりに
けれんみも無く輝く星星は
見え透いた嘘を付いているように思え
氷のナイフで喉を掻っ切るチャンスでも窺っているのか
乾いた打球音に替えて響き渡るのは
ラジカセから流れるダンスミュージック
オーバーハングした壁が崩れ
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