こんな夜は凶暴になる、/榊 慧
 
らついていた。笑い声はくぐもっていて泣き声のようにも聞こえる。髪を梳いてやると顔をこすりつけてきた。
心臓の音を聴いてんだ、拳大の肉の塊。呟いた。腋に手を入れて背中を抱きしめた。指が汗で汚された。月はいまだ赤っぽいまま、流れてゆかない。
水みたいな匂いがする。呼吸を荒げた。水だ、水の匂い。声は徐々に薄れてゆく。よくないことはわかってるんだ、こんなふうに、なだめられるのはよくないんだよ。瞼が痛々しくひくついた。笑っているのかもしれない。なんか、なんだろうな、わけわかんねえけど自分が止められないっていうか、救いようがない、木っ端微塵だ。語尾はすっかりかすれていた。
大丈夫だ。俺はまた同じことを言
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