黒虫/A道化
 




梳き櫛の息の根をわたし止めて
泣く姿、の、無音部分
を拭った指、の
薄命部分、月に透かせば
血潮は青ざめるばかりで
発光もせず


黒髪、の
窒息密度で、黙ったままの
ただ、微かな痙攣だけが生きる証の
わたし潰されたての虫のようで、いて
わたし辛うじて未だ潰れていない虫で
発光など、せず


けれどただ、髪の伸びてゆく音に、潰さぬ様に、手をあてて欲しいと願い
俯いた頭部をやっと通過した髪が、意外に固い胸部と意外に弱い腹部を濡らし
重油のように、鬱を含み床に溜まり汚してしまう前に
すくうように、誰かに手を、誰かに、手をあてて欲しいと
発光も出来ぬくせに願う、しんしんと髪の伸びてゆく音を
潰さぬ様に、或いは潰してしまう程に、むしろ潰してしまう程の荒さで
嗚呼、誰か、誰か、手を、手を、手を


ふと、気がつけば
哀れなほどの執拗さで髪に固執する、指、その
薄命部分、月に透かすも
血潮は青ざめるばかりで
嗚呼、どうしてもわたし組成上
発光できないように出来ていて



2004.6.18.
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