ノート(白窓)/木立 悟
 


窓から世界が見えすぎるので
何度も何度も触れつづけては
指とガラスをたしかめていた
消えた素顔をたしかめていた



描かれた線に雨は重なり
音だけを残して見えなくなった
夜のむこうの夜が見えても
窓のむこうの雨は見えない



もしかしたら雨ではないのかもしれない
もしかしたらなにもないのかもしれない
ふたしかなものだけがただひとつたしかで
他はすべてこだまかもしれない
他はすべて痛みかもしれない



窓のそばに立つ線は
時とともに瑞々しくなり
どこにもいない雨のように
夜のむこうの夜と呼び合う





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