この世界を離れて ★/atsuchan69
 
う言って大笑いをした。
「いや、わしもじつはうすうす感じているよ。その閃光のようにほとばしる類なき才能と狂気とを」
「もしや‥‥」
 と、こんどは素顔の道化役が口をはさんだ。「あなたのバイオリン、音のひびきがちがいますよね」
 父ちゃんはすこし心配そうな顔をした。
「まあ安物にしてはいい音だが」
「あなたは昔、高名な音楽家のお弟子さんだったのでは?」
「どうしてそう思う?」
「ふんいきとか‥‥なんとなくですけど」
「あははは。わたしの師はわたしさ」
「そうなんですか」
「この人はな、わたいの通うとった女学校で音楽の教師してましてん。どない思います? みなさん、びっくりでっしゃ
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