墜落のはじまり/佐々宝砂
遠い昔になくした鉱物標本や
売り払ってしまった本や
完成できなかったプラモデルや
そんなものが並んでいて
きもちよく整頓された部屋の中央には
ひとつのテーブルがあって
いれたての香ぐわしいコーヒーがあって
そしてきっと
あの女が微笑んで待っているのだ
俺はドアをあけなかった
俺はバケツにいっぱいのセメントがほしいと思った
するとそれは俺の手にあった
俺は泣きながらセメントでドアを塗りつぶした
それから俺はさらに落ちていったのだけれど
それはまた別な物語である。
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