墜落のはじまり/佐々宝砂
 
目醒めて夢をみたのか
夢のなかで醒めたのか
ともあれ俺は夢のなかで
不意に見出したのだった
油絵具でかっきり描いたような無人の街と
そこにたたずんでいる俺自身を

夢なのだから飛べるはずだ
俺は飛んだ
簡単に飛べた
山々の緑つらなる大地
黴のような都市
ぎらぎら太陽を反射する海
俺は飛んだ
飛びながら思った

落ちたい、と。

そのとたん俺はまっすぐに落ちた
油絵具の街が俺を受け入れ飲み下した
地下街の貧乏くさい照明が俺を照らした
鉄のドアがあった

俺は知っていた
そのドアをひらけば
俺のためだけに用意された部屋があることを

そこには

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