人形/AKiHiCo
私は壊れた人形
誰に思われるでもなく
忘れられて箱に仕舞われた
確か主人が名前をくれた筈
だけど思い出せない
螺子がくらくらと緩んでゆく
元々欠品だった私を
主人はそれでも構わないと
私を抱き上げた
初めて感じる体温
何とも言えない
安堵感に包まれたのを
この壊れた人形でも
忘れない事だってある
主人は忘れてしまっていても
私は覚えている
きこきこぎしぎしきぃこきこ
腕を伸ばしたら蓋にぶつかった
誰かの声がする
主人の声 それから
新しい人形達だろうか
楽しそうな声が弾んでいる
唇を開けてみたものの
言葉は何も出てこず
代わり
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