『和氏の壁』の逸話のように/松本 卓也
 
見えないものなど何も無いと
空に嘯いてみたとして
足元に転がる雑多なガラクタの中
光る石ころが拾えないならば
いかほどに意味があるのだろう

振りかざす善意に埋もれた慟哭
今日も薄っぺらな正義の名の下に
名も無き人々の涙が消えていく

空洞に埋め込まれたガラス玉には
誰かに与えられた権威と
媚びに塗れた名声だけが
美しく彩っているのだろうか

暖かな冬空の下
路上の片隅に咲く
小さな白い花びら

ビルと民家の隙間で
合った目を逸らすことなく
微かに鳴いてみせる野良猫

中空に舞う二羽の鷹
繰り広げる縄張り争い
悠然と漁夫の利を狙う烏

見えない
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