鏡降る夜/木立 悟
 



向こうの見えない硝子の向こうに
歩きつづける何ものかがおり
ふと振り返り こちらを見ている


ひとつをひとつに吐き出しながら
空が鏡を燃している
たもつものなく
いとうものなく
燃やしつづける


うなじの水にまたたいて
夜を越える鏡の群れから
炎はこぼれ落ちてゆく
淡く小さく落ちてゆく


曲がり角に面した家の
すべての窓を一瞬照らし
熱は土へ散ってゆく
川に呑まれ
泡に満ちる


星が在り
星を疑う
空を透した星なのか
鏡に映った星なのか


鏡に鏡をかざしたまま
帰ることのない波を見ている
干いてゆく
偽りも 
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