鍵/アンテ
 
を投げ込むだけで
流れを堰き止めるなんて
できないと
決めつけていた
鉄橋を
人が渡ったってかまわないのに
胸まで川につかるくらい
なんでもなかったのに
少年野球や
菜の花の群生
のことを考えて
それで別のなにかを得られた気でいた

階段をのぼる
病室をひとつずつ確かめる
ポケットを探ると
鍵がひとつ
指に触れる
アパートの部屋のものか
古い借家のものか
確かめるすべはない
あるいは同じなのかもしれない
窓から差し込む光
は弱すぎて
廊下がどこまで続いているのか
わからない
ドアのノブを握った瞬間
この部屋だ
と感じる
ドアを開けると

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