名前/kaori*
 
老人たちの寝息が 午後を 静かに揺らす 時折 
声にならない声が 響いてくる 痩せた腕で
眠らない彼女は 本を 差し出す

名前を呼んで 
私の名前
忘れえないでいるものを

彼女の眼が 空白の ページを 見つめる 鋭い
凝視が 形のないものたちを 逃さない 彼女の
物語は どこへ行ったか

名前を呼んで
私の名前
忘れえないでいるものを

じりじりと 時は 彼女を 焼き尽くす 振袖の
端にも 火がついた 新婚の夕暮れ時も 燃えて
遠い まぼろしの あなた 

名前を呼んで
私の名前
忘れえないでいるものを

今 
いっそう
凛として 
燃えてゆくのは 黄色い薔薇
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