物差し/佐々木妖精
16年経って動かなくなった壁の
パチンコ屋の景品の
時計の匂いがする
雪が屋根を揺する日に
凍えた足を挟んでくれた
シワシワの両脚の
安心の匂いがする
肝臓をやられ
病室で孫の名前を忘れた
じいさんの
匂いがする
南方でマラリアに犯され
湯船で春日八郎を歌い
盲腸の痕を
鉄砲でできたヘソ二つとうそぶいた
じいさんの
香り
それは
時代が
悪かったのだから
いつの間にか追悼され
慰安婦は
その犠牲者であり
そんな時代もあったねと
中島みゆきが歌う30年後の時代は
再びじいさんに
換気扇の下で
斥侯を強いる
ストローをくわえ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)