花と指/木立 悟
花の名前をひとつ忘れる
波の音が庭を巡る
部屋の空をひとつ名付ける
花が花をなぞる
目を閉じ 聴いている
指先へ指先を唱うかたち
羽の輪を呑み
誰もいない明るさ
傷のたしかさが昇るのを見る
ひらいた腕から 虚の胸から
似たものは無く
得たものは無く
ひとつの手のひら
何もない手のひら
花の花のなかに立ち
ただ滅するを見つめている
約束が燃えてゆく
心地良さが燃えてゆく
誰にも何にも触れぬかたちが
果てに至るたび指となり
たどり着いたものひとりひとりの
そのままをそのままに受け入れてゆく
無数の名
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