喪失/秋桜
無くしたのです
何を無くしたのかは
覚えていないけれど
無くしたのです
確かに私は無くしたのです
無くしたのです
無くしたものは判らないけれど
記憶と一緒に無くしたのです
それをたいせつにしたかった
そんな記憶すら今はあやふやで
恐ろしいのです
無くしたものは知らないけれど
私の過去を連れて
手の届かないところに旅立ったようです
砂浜にびっしり書いた
君への手紙が
静かに波に浚われました
少女が握った風船が
悪戯な風によって
空の彼方へ旅立ちました
私の記憶は
壊れた砂時計のように
さらさらと流れ出しています
今も刻々と
戻る 編 削 Point(4)