今 私が壊れかけているから/いねむり猫
なつかしさの中にあるのは
小さなベッドの隅で 身を縮めていた切なさ
冷たくなった背中に 毛布をかける人がいなくなった
打ち抜かれた心のたどる いつもの白昼夢
なつかしさを避けるのは 私の心が弱いから
なつかしさのとなりに いつも寄り添う穏やかな光
さっきまで隣で寝ていた飼い猫の温もり
そこに目を向けると 視界から逃れる美しい小鳥の影
人ごみの中で味わう苦い孤独
なんの作意もない笑顔の裏を 読もうとする怯え
身を投げ出すような友の信頼に
わがままな負担しか感じない心
磨り減ってしまった爪と指
新緑の風をつかむことができなくなった羽毛
壊れるまで大切に使いつづけた 自分だけのラジオ
途切れ途切れに聞こえて来る 音楽と人の話し声
なつかしさの中で深くなる闇
壊れたものを いと惜しむのは
今 私が壊れかけているから
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