逃避者たちに捧ぐ/松本 卓也
潰れたボンネットを横目で見ながら
霧に包まれた山道を駆け下る
対向車のハイビームに顔をしかめつつ
眼前の日常を無闇にこなしている
それが現実と知るからこそ
誰かが流す涙に隠れたナルシズム
悲しみを綴りつつ響きあう心無い声
失望の無い嘆きだけが木霊する劇場で
立ち尽くす異端者の哀れみが零す悪態
何故に誰もが温もりを主張する自慰に
染み渡る重みの欠片さえ感じない
涙を流す事ができるのだろう
見えない所で知らない人が死んだ時
悼む感傷に囚われなかったとしても
仕方の無い現実に過ぎないというのに
背後に光線を背負って
自らの影像を数倍に見せて
大げさに
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