「隣接風景」/菊尾
「忘れた。」
口にすればそれは嘘だと
彼女は気付きながら
繰り返して、繰り返して、
ルーペから黒紙へ
伝える熱は優しくない
温度差のあるアレとソレ
誰も彼もが遠すぎて距離の意味を失くす
ノイズが薄紫に染めていく
誘惑は人を連れて行く
見知らぬ場所で身体は灰になる
轟音が渡っていく様を見続けて
僕は自分の声を思い出せない
眩暈が何重もの波紋を広げてくれるから
出来るだけ伸ばした腕と指先
よく晴れた日の屋上で
壊れたソファーで
鎮まらない痛みの中で
遠くの面影に目を凝らす
傍で頬杖をついていた彼女は
椅子に腰掛けて本を広げる
それは神様が畳み始めた庭のこと
喉元から別れを告げ始める
青いインクが屋上に滲むまで
それを見続けている
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