もういない/麻生ゆり
「もう、君はいないんだね。
僕が愛した君は、目の前にいても、心は遠く離れてしまって、うつろのよう。
黒い髪も、白い腕も、柔らかな耳たぶも、全て手をのばしたところにあったのに。
もう、いない。
君は最後の最後で、嘘をついてくれなかった。
笑うことすらもせず、君は泣いていたね。
僕の最後の記憶は、君のなめらかな背中。
風すらも吹かなくて、君は香りすら残さなかった。
君はもう、宇宙に浮かぶ水の玉みたいに、完全に、いなくなってしまった。
『愛するものが死んだ時には、
自殺しなけあなりません。』
そう言った詩人も、もう、いない。
僕にとって、君はもう死んだ人なんだ。
僕の夢は、君とともにあって、
僕の笑顔は、君のためにあったのに。」
こんなヘタな詩を送りつけて、あの人は死んでしまった。
もういないのは、いったいどっちなんだろう?
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