ただ一人、恵みの雨を待ちわびる/松本 卓也
れなくなればいいのにと
詠いながら叫びながら
そして涙を奮いながら
人知れず願っているのだけれど
夕方過ぎから降り始めた雨が
渇いた大地を静かに濡らし続けている
山も川も人でさえも
渇ききれば動けなくなるのだから
雫の冷たさにうんざりしながらも
喜んでいるのが判るようだ
僕はまだ一人の夜に涙を流す事ができるから
まだあと幾夜かの虚しい夜を耐える事もできる
いつか心が耐えようの無い飢えを覚えるまで
張り付いた仮面が乾きひび割れるまで
たとえ向けられた笑顔が嘲りでも
たとえ投げかけられた視線が哀れみでも
卑屈に腰を屈し足掻く滑稽な姿勢は
どうしようもないお笑い種であるけれど
耐えるだけ耐えていれば
いつか恵みの雨も降るだろう
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