東京/久遠薫子
寒風に手指をかばう
待つとも待たないともいえぬ朝まだき
冷え切った空気が
空高くから透明に降りて
ちいさな公園の
遊具に残る最後のぬくもりを絶やす
ほぅ、と湿った息を吐く
団地の側面上部に凍える
番地表記の数字を
低い陽射しがゆっくり
ゆっくりと撫でる
融かしていく
暖色の白
どこかで鳥はみつめる
ゆうべりんごをむいたら
蜜がたっぷりだったよ
毎晩 死んで
毎朝 生きる
とても正しいと思う
そんなことも たしかに
あった気がする
滲ませてしまおう ラインなど
いくつもの
忘れられないものごとで
この体はできている
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