イェス=キリスト、山手線に乗る/草野春心
 
―とにかく彼はすごく疲れてた



  ぼくはキリスト教のことなんて殆んど無知だから
  彼の死後 彼の思想がどう伝わって
  そしてどんなふうに変化していったのかを
  教えてあげたくても出来なかった
  仕方なく天気や政治や経済やラーメン屋の話をした
  彼は自分の勤め先の不調と
  そこの禿げ頭の社長の傲慢を教えてくれた



  イェス=キリストは会社のある渋谷で降りた
  ぼくも乗換えがあったから一緒に降りた
  仕事に出かける彼の背中は
  誠実で正直でどこか物足りなさそうだった
  ぼくは彼に会ったことを恋人にしか話さなかった


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