獏/有邑空玖
る思い出
この手を振り解いて
何処へ行ってしまったの
紫の夕暮れ
鉄塔を呑み込んで
サヨナラの記憶
紡ぎ出す追想
どうしても
君の声が離れない左耳
一切は無駄じゃなく
蓄積されていくのだから
明日のあたしを作り上げるのは
昨日の涙とかそう云うものたち
哀しい寂しい嬉しい楽しい
全部いらない
君が持って行ってしまった
あたしの羽根の片方(かたっぽ)返して
もう一度飛べるはず
何度でもやり直せるはず
出口は何処?
微かに見えるあの光は?
戻れるのならあの夏の入り口へ
今度は間違えないように気をつけるから
目を閉じて 耳を澄まして
注意深く息をするの
君の名前は悪夢と云うの
決して消えない傷口に似た
醜態を曝している生きもの
仲間外れは誰だ?
もう帰らなきゃ 可愛い悪夢
目隠しを解いてはいけないよ
夜の底から更に底へ
どんな夢を見ていたんだっけ?
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