カメムシ、クラッシュ/斉木のりと
 
カメムシ

死んだカメムシ

臭いはしなかったのに

電車で死んだカメムシ

人に踏みつぶされて

もう一度見たその姿は

少し足が宙に上がっていて

可笑しな格好だった

僕は生きていたカメムシを見ていた

生きていたけど動かなかった

でも確かに生きていた

何度目かの乗降は

踏みつぶされなかったのに

つぶされない度に

安堵と残念な思いをして

僕は天邪鬼なのだと思った

早く踏みつぶされて死ねばいいのに

小さな悲劇を待つ僕は

残酷なのだろうか

いざその残骸をみて

思っていたより悲しかった

虫に憐れむ僕は

誰かに憐れみをかけられたいと思う
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