スカートの中/草野春心
 


  未来への現実的な不安と
  矮小でそれでいて強固な無知の塊
  それと あの娘のスカートの中の世界が
  十四の僕のすべてだった



  鼻がもげるような春の異臭は
  生きることの歓びと死ぬことのどうでもよさ
  時折ふり返るたび思うのはそれが
  あの娘の存在そのものだったということ



  踏んづけられたトンボの死骸
  激しすぎた通り雨
  歪む町に溶けた純情
  止まらなかった心の震え



  大事なものを仕舞っておくことしか出来ずに
  僕はただ「ロビンソン」を聴いていた
  そんなふうな偶然がいつの日か
  二人を一本の線で結んでくれると夢見て



  あのスカートの中の世界は
  まだ触れられることなく残っているだろうか
  浪漫でも性欲でもなく それは幻に似て
  僕の中の春で 静かに香り続ける


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