心のビル/doon
 

 誰もいなくなった
 傷付いたスーパーマーケット

 一階には生鮮食品売り場があり
 上には日用品売り場と
 もう一つ上に家具売り場が
 整然と人知れず並べられていた

 蜜柑は一ヶ月も賞味期限が切れていて
 袋に入った定規は折れていて
 ソファーには虫食い穴が開いていた

 窓の外の明かりは
 夜なのに
 隣町の明るさが差し込む
 店の前にある空き地が
 あの町を
 もっとずっと遠く感じさせる

 桶に張った水面のような静けさの中で
 時折り吹く春風が
 足もとまで感じるほど
 重く吹いていた

 客も従業員も
 此処からいなくなった

 照らし出された食品達が
 悲鳴をあげている
 此処にあることを恐れている
 そういう叫び声
 レジの奥にあったはずの主婦達の列を思い出し
 手の中の林檎が
 静かに転がって行った
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