立夏/有邑空玖
焼けた鉄の匂いがして
午后四時
夕暮れにはまだ早い
大きな橋の上から見下ろす川岸には
まだ若い女の子と男の子が手を繋いで座っていて
川の流れは緩やかでみどり色
遠くまでちゃんと青い空
夏の始まりはいつだってこんなふうだ
川の向こうをゆく電車は空と同じ淡(うす)い青で
そのまま溶けてしまえば良いのに
お気に入りだった下駄をカラカラ云わせて
アスファルトを駈けてゆく君
君、
新盆にはまだ早いよ
泣けて来るから現れないで
軽くなった前髪を風が梳いてゆく
爪先には臙脂色のネイルエナメル
君が好きだったソーダ水を買ったら
もうお家へ帰りましょう
夕焼けで町がオレンジ色に沈むと
漸くあたしの夏が始まる
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