海遊底辺 /藤原有絵
なにか
私ののど元でざわついたそれの名は
私がいつか水底で捨てたものだった
でも
それはいつでも正解じゃない
私は唇を噛んで
彼女の手を取り浮上する
地上へ戻る一寸前
生きる為の装備にともなう
強い目眩の向こうに
魚達が文字を擬態する
さようなら また来年 と
言葉も熱も飲み込んで
浅い呼吸で駅へ向かう
彼女を切り裂いた
たくさんのものたちへ
憤慨すると同時に
私は私が切り裂いたものたちへ
許して欲しいと願っていた
二人ですいすい泳ぎながら
私は乾いた唇を一度舐め
生きにくい熱波の世界へ
私と彼女と
私たちが愛する人たちへの
蘇ったばかりの
瑞々しい言葉を絞り出そうとしている
それは
いつも正しい訳ではない
それでも
私たちは
そういった習性を持っている
私はそう解釈する事にする
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