鉄糸/木立 悟
夜に降る夜から幻になり
分かれゆく灯の端から現になる
光の鱗に満ちる窓
ふちどりの迷路を世界は流れる
ふたつに割れたわたしそれぞれに
天から地から
糸のような鉄が差しのべられ
目の前で止まり
ただそのまま
静かにかがやく
角の丸い夏をめくると
傷つくばかりの指のむこうで
たくさんの笑みが風にくるまる
人ではない白い娘たち
みな伸びやかに
背を向けている
誰も見えない道をひとりで
かがやきを避けるように
目を細めて歩いていた
胴に燃え上がる炎に照らされ
道の両側を去ってゆくもの
あれはけして痛みではなかった
あれはけして痛みではなかった
襟元に文字の書かれた服を脱ぎ
娘たちは消えてゆく
もうずっと恐れていたのだろうか
夜の窓を掴むように這う
光の蜘蛛を見まいとして
片方の目を閉じるとき
もう片方の目の奥に
鉄は細くかがやいている
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